海面高度、海上風速、海氷等の海洋・海象データは、全地球の環境変動を把握する上で重要であり、気象予測、海運、漁業、海底資源探索など多くの分野でニーズがある。これまでの衛星を用いた海洋観測では、船舶に匹敵する高精度な観測を広域で繰り返し行うべく、海上風や海面高度などを計測する専門衛星が活用されてきた。これにより、船舶観測では数年~数十年に一度しか観測されていなかった海域が繰り返し観測できるようになる等、多大な成果をあげている。しかし、大型の専門衛星による高精度観測は多大な費用を要するために衛星の台数に限界があり、観測頻度は数日に一度程度に留まっている。このため,台風や爆弾低気圧のように短時間で変化する現象や、津波のように移動速度が速い現象は観測対象外となっていた。
一方、全地球を常時カバーする測位衛星(GNSS)の反射信号を用いる新たなリモートセンシング(GNSS-R)では、適切な軌道に配した小型衛星群を利用すると、観測精度は専門衛星より下がるものの常時観測が保証される。即ち、「船舶観測の拡張」という発想とは全く独立したGNSS-R手法を用いることで、これまでの衛星海洋学が手付かずで残してきた高頻度観測が実現し、短時間変化や高速移動する現象を解明することができる可能性がある。
本事業は、新しい宇宙工学分野であるGNSS-R観測データの取得・配信システムの整備、データ解析手法の開発と検証・確立を通じて、海洋科学と宇宙工学を跨ぐ科学コミュニティの「拠点」を形成し、これまでの海洋・海象研究で欠落していた「全地球常時観測」という視点を獲得して、それによって新たに得られる海洋現象を明確にする。